漢字教育士ひろりんの書斎>くつろぎのソファ>
2019.10. 掲載
クモとアリの死闘
8月にしては涼しいある朝、玄関ポーチに出てみると、足下で何やらぐるぐる回っているものが目に入った。しゃがんでじっくり見ると、脚を含めても5㎜にも満たないハエトリグモの幼生が、尻から糸を吐きつつちょこまかと円運動をしている。その中心には、クモよりは大きいが、これまた未成熟のように見える小さなアリが、糸に巻かれてもがいている。
なるほど、クモはアリを糸でがんじがらめにして、朝食にしようとしているようだ。だんだんとアリの可動部分が縮小していく。アリには気の毒だが、最後まで観察しよう。
クモが「もう十分だ」と思ったのかどうか定かではないが、それまでの円運動を少し崩してアリに接近した。そのときである。アリが残る力を総動員して、動ける範囲で目一杯の「伸び」を見せ、クモに渾身の一噛みを与えたのであった。
クモはよたよたと3㎝ほど後退し、壁の際に入って動かなくなった。アリは「この隙に」とばかり懸命に脚を動かしてクモの糸から逃れ、どういうわけかクモが後退した方向に少し進んだが、すぐに、全く違う方向へ去って行った。クモはどうなったかと見てみたが、全く動く気配がない。もともと小さなものがくしゃくしゃになっているようで、そこらの埃と見分けがつかなくなってしまった。
小さな世界での戦いであったが、猛獣同士の決闘にも匹敵する迫力で、野生の過酷さを見せつけられた。何よりの教訓は、「油断大敵!」。